MECAT開発秘話
「可能性」がある限り「夢」は必ず「現実」になる。決してあきらめない。
 
MECAT。その開発は「よりよい廉価なプロフェッショナルモニター用ヘッドフォンを」という需要からでした。実現までには概ね20年かかっています。
1995年、ある放送局のベテランミキシングエンジニアより、「理想のモニターヘッドホン」の話が挙がり、「今後の周辺技術開発を待たなければならないところが多くある。何年かかるかわからないが、挑戦してみる価値はあります。」とお請けしたことにはじまります。
その指定仕様は概ね以下の通りでした。
  フル・オーケストラでも、全ての楽器音がわかること。(無論、これにはボーカルも含まれる。)
「癖」のないこと。
いくら頑丈に作っても現場では壊れる。2万円を超えないものとし、「壊しても惜しくない」ものにすること。例えば安価な民生用ヘッドホンをベースにした改造機などが望ましい。
業務用ヘッドホンですから、①、②は当然です。しかしこれはそう難しいことではありません。問題なのは、それと③が相反することでした。「数が出ない」ことから「量産困難な」業務用ヘッドホンは、いくら頑張っても「手数」から5万円くらいまでが限度です。その半分どころではない安価な、つまり量産しないと達成できない価格要求、海外の「安価な労働力」に頼ってもこれは無理ですし、大体、そんなめちゃくちゃな低賃金労働(時間給にすると・・・何と1円にも満たない。誰がそんな条件で働きます??)を要求することは人権問題になります。新興国の人たちは先進国の「奴隷」ではありません。実現不可能とも言えるものであり、実際、これができれば「夢のヘッドホン」、開発の方向性すら見えない暗中模索の日々がその後、長く続き、ひたすらヘッドホンに使用する「材料」と「構造」の基礎研究が続きました。
2000年以降、次々に開発された新素材、すなわち高い遮音効果を有する素材の登場により、突破口が見えました。つまり、平面バッフル型と密閉型をあわせたもの=量産レベルの汎用民生用ヘッドホンの構造に高性能の吸音材をあわせることにより、課題を解決できる可能性が見えたのです。しかしその場合にはあらゆる条件、すなわちありとあらゆるヘッドホンの形状や素材影響を考えた膨大な計算が必要になります。それはスーパーコンピュータを必要とするものでした。計算量は新型ロケットを1機、設計するときほどのものになります。光などとは異なり伝播媒体を必要とし、かつ媒体の影響を大きく受けて「変質」する「音」はそれほどに大変で難しい。よく「映像機器はどんどん新しい製品(根本的に新しい製品)が発表されるが、音声機器は古くさいものが後生大事に使われる。音声分野は保守的だ。」などと言われますが、例えばマイクロホンひとつの「基礎開発」がどれだけ大変か、それは映像機器の比ではなく難しく、いわゆる「複雑系」を地道に解析する必要があるため、おいそれとはできないのです。
2012年9月、スーパーコンピュータ「京」の供用が開始されました。ちょうどこの頃、平川製作所はある大学と全く別の共同研究開発を行なっていました。その共同研究者に全く進んでいないこのヘッドホンの話をしたところ「う~ん・・・。確かに民生機はモデルチェンジが早いし、そもそも種類が多すぎる。これに対応できるようにしないといけない。まずは大規模計算、「公式化」しないと実現できないなぁ・・・京でやってみるか。こんなことに京を使うんじゃない!と怒鳴られそうだが、何だかんだ言ったって、利用料さえ払えば文句はない。利用料は高いけれども、そうは言っても一度、公式さえ作ってしまえば、あとはそれに従って作るだけになるから結局は安くなる。京は今、政府から「税金無駄使いの無用の長物!」なんて言われて予算カット、完全に「ゴミ扱い」、スタッフのモチベーションはガタガタ。「変モノだけれど実は最先端」のこれ、やろうよ!きっと皆、協力してくれる。」になり、実行、ついに私たちは公式を作ることに成功しました。この公式に所定の実測値を代入すれば、一発でおよそ全てのヘッドホンの「最適となる改造」がわかり、結果、どのくらいスペックアップするかが明確にわかります。つまり、例えば「新モデル」が発表され、実物が届けられれば、数時間ほどで具体的にどうするのが「最適になる」のかがわかり、あとは普通にモノにすることを考えるだけです。MECATシリーズの「真の実力=真の商品」はここで、「現物のヘッドホン」ではありません。すなわち従来普通の「やってみて」のチューニングアップヘッドホンなどとは全く異なるものなのです。
そしてその中で最適となる遮吸音材は、意外にも新素材ではなく、日本古来伝統のネコの毛であることがわかり、試作1号機には写真の雑三毛猫「ミィ」の毛を用い、計算通りのすばらしい結果が得られたことから、その名称は「MECAT」になりました。
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